[講評]

 平野啓子さんがめざした「語り総合芸術」への布石は、今回の公演で新しいステップを
踏み出し、その試みはいくつかの可能性を暗示させた。映像、音響、所作をさまざまに
駆使しながら、観衆のイメージ形成力を刺激し、「ひとり語り」で限られる部分をおぎ
ない合い、集合化による力を示すことで、新たな飛躍をめざしている。
 
それは聴衆の「語りの新しい形と展開」「語りの進化」という感想に表れている。試みが
100%成功はしないまでも、今後のキーストンとしての役割は十二分に果たしていると言え
そうだ。
 
そのひとつの現われは、笛と太鼓とのコラボにある。
笛はともすれば平板におちいりやすい語りの舞台に、音による鋭角的な断面を切り開き、太鼓は
叙情をいやがうえにも盛り上げて、印象的な構成力に寄与している。
 
外国の舞台では、笛と太鼓と、語りの力による「ジャポニスム」へのイメージ喚起力は相当な
力を発揮しそうだ。
 
今回の舞台では、前回ほど全面に出てこなかったが、芸術性の高いイメージ(日本画など)を
強調しすぎずに使うことは、語りの平明さを浮き立たせる力となる。その点で、今回、竹取物語の
背景が舞台を邪魔せず、受け入れられていたことは印象的だった。
 
こうした新展開でイメージの構成力を高めることは、とりもなおさず、語りの総合芸術化の道を
もう一歩開くことになりそうだ。




 

<ドイツ公演・ローレライ伝説(独日語訳)から>

(参加者 桜井信子、村田浩、宇佐美彪、山崎絹絵、山本博子、田村きみ子、前田玲子、
青木順子、平野敏子、立川、橋本伸子、岡田誠太郎)

平野啓子 欧州帰朝公演 2015おおもり

 2014年のドイツ・トルコ公演の帰朝報告会、平成27年度文化庁芸術祭参加公演となった平野啓子語りの世界「彩(いろどり)」は、2015年10月23日、東京・大森の大田文化の森ホールで、昼夜2公演で開かれました。

 欧州公演は、ドイツではライン川のローレライ伝説、トルコでは「オスマン・トルコ軍艦エルトゥールル号遭難記」などをかたり、文化庁派遣の国際交流使として国と国との友情の輪を広げて、その役割を十二分に果たして帰国しました。

 ひさしぶりの企画公演に、平野啓子後援会、ファンクラブ、大学友人会などいろいろな関係者が駆けつけ、にぎやかな集いとなり、当方からは総勢12名の大デレゲーションとなりました。


 来春2月にはドイツ・ミュンヘン大学での講義公演が予定されるなど早くも反響が返ってきています。

  なじかは()らねど (こころ)わびて
  (むかし)伝説(つたえ)は そぞろ()にしむ
  (さび)しく()れゆく ラインの(ながれ)
  入日(いりひ)山々(やまやま) あかく()ゆる

  (うるわ)少女(おとめ)の 巖頭(いわお)()ちて
  黄金(こがね)(くし)とり (かみ)のみだれを
  ()きつつ口吟(くちずさ)む (うた)(こえ)
  神怪(くすし)魔力(ちから)に (たま)もまよう
 
  ()ぎゆく(ふな)びと (うた)(あこが)
  岩根(いわね)()やらず (あお)げばやがて
  浪間(なみま)(しず)むる ひとも(ふね)
  神怪(くすし)魔歌(まがうた) (うと)うローレライ

母校早大からの応援団